360°Journal
360°Journal 特集|002

動き出した
「オクシズ漆の里プロジェクト」

皆さんは「オクシズ」、「しずまえ」ってご存じだろうか?

南北に長い静岡市が提唱する産業開発のエリアのことで、簡単に言うと山の方を「オクシズ」これは農林業、河川活用などの産業を表し、
海の方を「しずまえ」これは海岸線から駿河湾近海で営まれる漁業、水産業を主に指す。

個人的には潮でベタベタする海よりも、冷たい清流が好きなこともあり、やたらと山や川に想いを馳せることが多い。
でも、いま住んでいるのは海のそばだけどね。

さて、その山方面「オクシズ」ではいろいろな試みが行われていて、特に井川を中心として、昔からあった農作物「在来種」の復活と育成がよく話題になる。
在来の蕎麦を、昔ながらの焼き畑で植えて育てたり、若い夫婦が移住して在来種を育てたり、
という話だ。

 

「漆」の英語表記は“japan”

こんな中で、いま、オクシズで「漆」を育てようとするプロジェクトが話題になりつつある。

静岡市には「漆畑」さんがたくさんいたり、「漆山」という地名があったり、「駿河漆器」という伝統工芸があったり、由来はわからないが「漆」とはなにか切っても切れない縁があるように感じる。

この「漆」は近年、再注目されるようになった。それは2015年文化庁が「国宝や重要文化財の修復には国産漆を使用するように」と通達を出したところに始まるようだ。「漆」の英語名はなんと「japan」、当時の文科相の下村さんが記者会見で、「漆」の重要性を説いたときにコメントしたそうだ。

また、国産漆は外国産に比べて、光沢に優れ、硬化した塗膜は堅牢・強靭と言われている。しかし、現在国内の漆の栽培、塗料としての生産は中国の安いものが台頭し激減、国内の漆産業では原料となる「漆」の約97%が中国などからの輸入に頼っているのが現状だという。

 

 

国産の漆が足りない!?

さて、ではなぜ、静岡で「漆」の栽培をしようとするのか?漆畑さんが多いから?

そうじゃない、実は、国宝・重要文化財に認定された静岡県の漆の建造物数は、東京都を除き、京都府と同率の2位なんだそうだ。そして、静岡県の漆の建造物のほとんどが静岡市内にあると。

現在修復作業中の静岡浅間神社、楼門の修復には820㎏の漆が必要だが、これは国内生産量の7割にあたり、全国一の漆の生産地、岩手県二戸市の生産量に匹敵するらしい。しかも、二戸市の漆は岩手の中尊寺金色堂、栃木の日光東照宮、京都の金閣寺などで使われるため、静岡へはなかなか回ってこないんだと。たしかに地元消費優先ってことになっているのに気づく。じゃあ、久能山東照宮もあるのに、国内産「漆」が足りないじゃん!っていうことになる。

今後、ほぼ永遠に外国産の「漆」で、浅間さん、久能山が修復されるのぉ?そんなの嫌だなあ〜。

 

動き出した「オクシズ漆の里プロジェクト」

そこで、オクシズの林業家たちが立ち上がった。

でも、漆畑さんがいても、漆山があっても、林業家たちはふだん杉やヒノキを育てている中、触るとかぶれる「漆」はどちらかというと邪魔な木で、見つけたら切ってしまう厄介者だと意識していた。だから、「漆」に詳しい専門家はまったくいない。

また、「漆」の苗を植えたとしても、樹液が取れるようになるまで10数年かかるし、「漆掻き」という技術をもった人達が必要で、樹液からの「精製」作業ができる技も必要になる。とすると、林業家だけではなく、様々な分野の専門家や応援団を入れたチームを作らなければならない。

そこで発足したのが「オクシズ漆の里協議会」で、「オクシズ漆の里プロジェクト」を進めることになったそうだ。

 

漆職人、木工職人、文化財関係者、金属メーカーや建設業、学生など、仕事も経歴も様々な人たちが集まり、プロジェクトを開始した。
「漆」を植え、「漆」を取り、工芸や修復や新産業に生かし、そこに人が集まり、商品が購入されて資金が溜まり、その資金で新たに「漆」を植える。
こんな持続活動がSDG’sの思想にぴったりとはまってきている。

「静岡漆」で新たな地産地消の動きが生まれようとしている。

 

記 知久 昌樹(静岡新聞社)